ITベンダーQ社研究開発部

老朽化が進む道路や橋などのインフラを監視する、IoTデバイスの電源問題を解決過酷な環境下でもモニタリングしてデータ通信をしたい。しかし開発に思わぬ壁が…

背景

日本では高度経済成長期に建設された建物や道路橋、港湾岸壁などの老朽化が進んでいる。そのため、安全性を担保するための仕組みづくりが喫緊の課題となっており、IoT技術を取り入れた状態監視システムの開発がITベンダーを中心に加速している。
ITベンダーのQ社でも、自社のセンシング技術を駆使した状態診断システムの開発をスタート。開発は順調に進んでいたが、ここにきて苦戦を強いられていた。

※日本全国の橋りょう数は約70万橋。このうち建設後50年以上経過する橋りょうの割合は加速度的に高くなっており、2033年3月には約63%に達すると予測されている
(出典:国土交通省「社会資本の老朽化の現状と将来」

課題

安定した電源の確保が課題。すべてが配線可能な場所ばかりではない

Q社は2つの機能を組み込んだ状態診断システムの開発に取り組みました。1つは監視するためのセンシング機能、もう1つはセンシングにより集めたデータを伝送する通信機能です。当初、これらの電源の確保には、系統電源を使用する方法を想定していました。しかし、検査対象の多くは橋脚など配線が困難な場所ばかりだったのです。そこで電池を用いたシステムへの変更を試みましたが、一次電池では定期的かつ簡便な交換が必要となります。研究開発部は安定した電源の確保という課題にぶつかりました。

二次電池の発想までは良かったが、どれも耐環境性に乏しく、大きなものばかり…

数日後、解決策を検討していた研究員から提案がありました。それは太陽光発電や振動発電などの環境発電と、そこで発電された電力を充電できる二次電池とを組み合わせる方法でした。メンバーは早速、試作品を作ってみましたが、評価した二次電池はどれも耐環境性に乏しく、すぐに電池が劣化してしまいました。

このシステムが設置される場所は、夏場の直射日光が当たるところでは60℃以上の高温にもなり、また寒冷地の冬場はマイナス20~マイナス30℃の低温にもなるのです。そのため屋外設置の診断システムには適用が難しいと判断しました。そのうえ、2つの機能を常時動かすには電流出力も弱く、すぐに充電が必要となってしまいます。また二次電池のサイズがどれも大きく、想定していたシステムのサイズを超えてしまうという問題も見つかりました。電源の問題ですべての開発が止まってしまい、この状況に開発担当者たちはなす術もありませんでした。

課題のポイント

  • 系統電源の配線が困難な場所で使われる診断システムの電源を確保すべく、一次電池を検討するも、定期的な電池交換には限界がある

  • 二次電池を評価したが、どれも耐環境性に乏しく、すぐに電力を消耗。そのうえ、電流出力が弱く、サイズも規格に合わない

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